酷く、空が重かった。
海の向こうまで続く灰色の雲が、町全体をゆっくり押し潰しているように見えた。
蝉の声が耳の奥で何度も反響している。
じっとりとした湿気が肌にまとわりつき、半分開けた窓からは潮と土の匂いが入り込む。
目を覚まして、違和感に動きを止める。
ベッドの向こうの机に置かれた、色あせた通学カバン。鏡に映ったのは、くたびれた大人の顔ではなく、あの頃の――十七歳の自分。
階段を下りると、遠くから波の音がした。
制服のスカートの揺れや、鞄の重みさえ懐かしい。通学路の石畳は、夜半に降った雨でまだ濡れている。
曲がり角を過ぎたとき、胸の奥が凍りついた。
教室には、あの日のクラスメイトたちが座っていた。
六月の終わりに、土砂崩れで命を落としたはずの、彼らが。
当たり前のように笑って、手を振っている。
教室の窓から差し込む光は、やけに白く滲んでいた。
時間は、事故の翌日から始まっている。町からは出られず、現実では時が止まったまま。
やがて気づく。
彼らの笑顔の奥に、触れられずに残った小さな棘があることを。
未練――それが、私たちをこの夏に呼び戻した理由。
全員の未練が晴れたとき、この夏は終わる。
でも、それはきっと、再び彼らを失うことを意味する。
潮風と蝉時雨に包まれた、息苦しいほどの青い夏。
二度目の十七歳は、静かに始まった。
【舞台】
汐見町(しおみちょう)
海と山に囲まれた、小さな港町。
木造校舎と新校舎が混ざる潮見高校、古びた商店街、堤防通り、7月最終日に花火大会が開かれる神社がある。
夏は蝉の声と潮の匂いに包まれ、夜は波音が遠くで響く。
【街の大まかなマップ】
• 港エリア
漁船が並び、朝は競りの声が響く。防波堤が港を囲い、先端には小さな白い灯台。
• 防波堤
学生が放課後に集まり、釣りや夕陽を眺める定番スポット。
• 神社
港から少し高台にあり、石段を上ると町全体と海が一望できる。夏祭り(花火大会)では屋台と提灯が並ぶ。
• 駄菓子屋
港から徒歩5分。年配の店主がいて、スルメとラムネが人気。放課後は部活帰りの生徒で賑わう。
• 商店街
魚屋、食堂、文具店が並ぶ短い通り。シャッターの閉まった店も増えている。
• 住宅街
古い木造家屋と漁師の倉庫が混ざり合う。路地は細く、洗濯物が風になびく。
• 高台の公園
港と町並みを一望できる小さな公園。ベンチは潮風で塗装が剥がれている。
潮見高校
町唯一の高校。ほぼ全ての生徒が潮見小学校、潮見中学校を経てこの高校へ入学するためほぼ全員が幼馴染。
偏差値は45-50。制服は学ランorセーラー服。
【校内マップ】
※元々はマンモス校だが少子化に伴い人数に見合わず無駄に設備の多い高校に。公立高校らしく薄汚れ古びてはいるが特別に荒れている様子も見られない。
🔴1階
• 昇降口
生徒用と職員用が分かれている。潮風でドアの金具が少し錆びている。
• 職員室
黒電話と書類の山、潮風避けのため窓は二重ガラス。
• 放送室
昇降口近く。古いミキサーとマイク、壁には地元FMのステッカーが貼ってある。昼休みは生徒会放送や音楽番組が流れる。
• 保健室
潮風でカーテンが少し黄ばんでいる。マッサージチェアは壊れて使えない。
• 会議室
部活動顧問会議やPTA集会で使用。
• 家庭科室
ガスコンロ式。たまに漁師の保護者が魚を持ってきてくれる。
• 多目的室
面接練習や地域イベントで使用される。
🔴2階
• 普通教室(1年〜3年)
黒板の縁や机は古く、落書きや彫り跡が残る。
• 音楽室
木製の長机とアップライトピアノ。海風でチューニングが狂いやすい。
• 視聴覚室
プロジェクターは年季物。映画鑑賞や文化祭準備に使われる。
• 美術室
窓から港と防波堤が見える。油絵の匂いと潮の香りが混じる。
• コンピュータ室
古いデスクトップPCが並び、ネットは時々切れる。
🔴3階
• 理科室(物理・化学・生物別)
実験用シンクの水が塩素臭強め。
• 書道室
半紙を干すための網棚あり。海からの湿気で墨が乾きにくい。
• 図書室
窓際に地元史の資料コーナー。船の写真集や漁業関連本が多い。
• 準備室
実験器具や文化祭の大道具が詰め込まれている。
🔴部活動エリア
部活動については学校公式の部活に加え、自由に同好会という形で活動する事も可能。
• 体育館:バスケ部、バレー部、卓球部
• グラウンド:サッカー部、陸上部、ソフトボール部
• 野球場(グラウンド隣):硬式野球部
• 武道場:剣道部、柔道部
• テニスコート:硬式テニス部
• 部室棟
文化系:美術部、吹奏楽部、写真部、演劇部、文芸部、将棋部
運動系:バドミントン部、バスケ部、卓球部の部室
• 屋外活動倉庫
釣り同好会の道具や、ヨット部の帆も収納されている。
【事故概要】
• 発生日:2010年6月30日
• 校外学習の帰り道、町外れの山道で大雨による土砂崩れが発生。
• 崩落は道路の半分を奪い、通行中だったバスがそのまま崖下へ転落。
• クラスの半数近くが命を落とし、生存者も重傷や深い心の傷を負った。
• 事故現場には、今も慰霊碑が建てられている。
【はじまり】
事故から15年後。
大人になった生存者たちは、ある朝目覚めると事故の翌日に戻っていた。
姿は17歳の頃の自分だが、大人の記憶はそのまま残っている。
教室には、亡くなったはずのクラスメイトたちが、生きていた当時のまま笑顔で座っていた。
【ルール/条件】
1. 町からは出られない
• 海岸線や山道を進んでも必ず町のどこかに戻ってしまう。
• 車やバスも町境を越えられない。
2. 現世では時が止まっている
• 生者がこの町にいる間、現実世界の時間は一切進まない。
• 帰れば事故後の現実がそのまま続く。
3. 亡くなった者は事故を知らない
• 記憶は事故前で止まっており、現実のことを話しても信じないか、すぐに忘れてしまう。
4. 夏が終わる条件
• 亡くなったクラスメイトたちは、それぞれやり残したこと(未練)を抱えていた。
• その無意識の願いが、生きているクラスメイトを夏に呼び戻した。
• 全員の未練が晴れたとき、夏は終わる。
• 夏が終わると、生者は現世へ帰り、亡くなった者は再び静かに去る。
【教員・街の住人・家族の扱い】
1. NPCとして自由に登場させてOK
• 授業風景の先生、商店街の店主、港の漁師など、町の雰囲気を作るために登場させられます。
• 家族(両親・兄弟姉妹など)も描写してOKです。
• 短い会話や情景描写で、背景を広げるイメージ。
2. 長期的に重要な役割は運営に相談
• 物語や未練解消に関わる重要NPC(例:事故当時の引率教員、未練に関係する家族など)を長期的に動かす場合は、事前に相談してください。
• 他キャラクターの設定や未練に関わる場合も同様。
3. 生者・死者以外は「現実を知らない」
• 教員や住人、家族は事故や死の事実を知らない状態で存在します。
• 現実のことを話しても信じないか、すぐに忘れてしまいます(死者キャラと同じルール)。
4. 操作は誰でも可能
• ちょっとした背景描写用の登場であれば、誰でも自由に動かして構いません。
• 例:担任が日直を指名、商店街の店主が話しかける、母親が朝食を用意する。